研究概要 |
自己免疫性疾患の発症原因を解明するには,最初の免疫応答,特にそこで認識されている抗原とそれを認識するT細胞を明らかにすることが最も重要である。しかし,特にヒトでは,初期病変の採取が非常に困難なため,この解明は殆どなされていない。この点,Crohn病では初期病変がアフタ様病変として内視鏡的に認識でき,かつ,採取でき,初期病変を直接解析の対象としうる殆ど唯一の疾患といえる。一方,自己免疫性疾患でのT細胞レパトアの解析が近年なされ,一部の疾患で一定の偏りが報告されているが,発症機序に迫るには更にクローナリティまで解析することが重要である。そこで我々は,これら初期病変でのT細胞クローナリティをTCR VβについてのSSCP法により解析した。その結果,1)非病変部粘膜の浸潤T細胞はoligoclonalであった(既報告のとおり),2)病変部には非病変部より多くのクローンがみられた,3)初期病変よりも進行した病変でより多くのクローンがみられた,4)病変のみにあるクローンには,初期病変のみにあるもの,進行した病変のみにあるもの,両者に共通なもの,があった,5)初期病変に見られる病変特異的クローンは,一人の患者当たり1ないし数個にすぎなかった,6)同一患者では別々の初期病変で浸潤しているT細胞クローンのパターンは基本的に同一であった,7)それらについてはシークエンスを直接調べた結果,同一クローンであることが確認された,8)患者により病変特異的なT細胞クローンのVβは一定しなかった,9)これらTCRのCDR3領域のアミノ酸配列では共通のモチーフは指摘できなかった,10)ステロイドや免疫抑制剤を投与されている患者ではT細胞のclonal expansionはみられなかった,の諸知見が得られた。就中,初期病変に特異的なT細胞クローンの存在が確認されたことは,それらの中に抗原特異的に応答しているT細胞クローンがあることを示唆しており,極めて意義が大きいと考えられた。
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