1980年代から、興奮性アミノ酸受容体拮抗薬が相次いで発見され、けいれんへの同受容体の関与が明らかになってきた。1982年に発見されたジョロウグモ(JSTX)が興奮性アミノ酸AMPA型受容体拮抗作用を有し、新しい構造を有していることがNakajimaらによって明らかにされた。そのアナログの一つとして開発された1-naphtyl-acetylspermin(1-NA-Spm)は、AMPA型受容体に対して選択性が高く、抗けいれん作用が期待できるために、新しい抗てんかん薬の候補の一つとなりうると考え、本研究を行うことにした。 本研究では、AMPA型受容体のpartial agonistであるcyclothiazideを用いてAMPAの脱感作を抑制することで誘発されるけいれんと神経細胞死に対する1-NA-Spmの効果を検討し、あわせてカイニン酸、ドウモイ酸の誘発するけいれんに対する影響を検討した。その結果、cyclothiazideによって用量依存的にAMPA誘発性けいれんが増強され、かつAMPA単独投与では観察されなかった海馬CA3/4に選択的に神経細胞死が出現した。これらのけいれんと神経細胞死のいずれも、1-NA-Spmによって完全に抑制された。カイニン酸、ドウモイ酸誘発性のけいれんや神経細胞死には、1-NA-Spmは有意な効果を示さなかった。 次に、難治性てんかんの一つのモデルであるキンドリング動物を用いて、1-NA-Spmの効果を検討した。その結果、1-NA-Spmは、stage5まで到達したキンドリング動物の発作と後発射の接続時間を用量依存的に抑制し、その抑制効果は少なくとも24時間持続した 本研究の結果、ジョロウグモ毒素由来の1-NA-Spmは、複数のけいれんモデルにおいて抗けいれん作用、神経細胞死の予防作用を示し、新しい抗てんかん薬になりうる可能性があることがわかった。
|