インスリン依存型糖尿病(IDDM)はT細胞を介した自己免疫機序により起こるとされるが、この過程ではMHC分子が抗原ペプチドをT細胞受容体に提示することが重要である。本研究ではHLA class II分子に提示される膵ラ氏島由来のペプチドを明らかにしようとした。IDDM患者末梢血のリンパ球からB細胞株を得、一方は培地のみ、もう一方はヒト胎児膵ラ氏島株の破砕物を加え培養した。細胞表面蛋白を可溶化し、アフィニテイークロマトグラフィーにてHLA-DRおよびHLA-DQ分子を得た。酸処理、限外濾過にて抗原ペプチドを得、これを逆相HPLCにかけHPLCのパターンを比較した。DR分子由来の抗原ペプチドのHPLCではヒト胎児膵ラ氏島株の破砕物を加えて培養したB細胞株より得たものに特異的な3個のピークをみとめた。これらはIDDM感受性のあるHLA classII抗原で特異的に提示される膵島抗原である可能性があり、現在シークエンシング中である。 また上記の研究目的のためには大量のHLA分子が必要となるのでHLA分子の供給源として血清中のHLA分子(soluble HLA : sHLA)も考え、その定量をHLA classIについて行った。40人のIDDM患者の発症前後の血清でsHLAをsandwich ELISA法で測定した。IDDM発症時のsHLAは正常対照に比べて有意に低かった。sHLAのレベルと動態はHLA-A24の有無で異なり、経時的な変化は、HLA-A24を有するIDDMでは発症後2年目までは低かったが、2年目以降には既に上昇した。HLA-A24を有しないIDDM患者では発症後4年目まで徐々に低下し、その後除々に上昇した。早期(18ケ月以内)におけるβ細胞機能の廃絶はHLA-A24をもつIDDM患者では13例中5例で起きたが、HLA-A24をもたないIDDM患者では14例中1例にしか起きなかった。発症36ケ月以降のβ細胞機能の廃絶はHLA-A24をもたないIDDM患者では14例中7例で起こったが、HLA-A24をもつIDDM患者では13例中1例も起こらなかった。sHLAにはimmunoprotectiveな作用があるといわれている。IDDMではβ細胞破壊が起こる時期に一致して血清sHLAは低下していた。
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