我々は、増殖因子(IL-3またはGM-CSF)依存性ヒト白血病細胞株F-36Pから既知のチロシンフォスファターゼ(PTPase)に保存されている領域をプライマーとしてPCRを行い、3種の新規PTPase cDNAを単離した。このうち白血病細胞株及びマウス臓器中で最も発現が高く認められる1種をプローブとしてひと胎盤cDNAライブラリーのスクリーニングを行い、翻訳領域全域を含むと思われる約5kbのクローンを得、これをHPTPη(Human Protein-Tyrosine Phosphatase η)と命名した。一次構造の解析の結果、HPTPηは膜貫通型のPTPaseであり、細胞内に1つのPTPaseドメインを持ち、細胞外領域は10個のファイブロネクチン(FN)類似の繰り返し配列を持つ、分類上type-IIIと呼ばれるPTPaseに属する事が判明した。血液細胞から単離されたtype-IIIPTPaseはこのHPTPηが初めてであると思われる。我々はHPTPηのチロシンフォスターゼ活性が既知のチロシンキナーゼにどの様な影響を与えるかにつき、src familyのチロシンキナーゼを中心に解析を行なった。実際の方法としては、各種のsrc familyのチロシンキナーゼを高発現しているマウス3T3 fibroblastにcytomegarovirusのプロモーターのもとでHPTPηを共発現させ、細胞の形態変化を観察すると共に、抗リン酸化をチロシン抗体を用いて細胞内蛋白質のチロシンリン酸化の変化についても検討を行った。しかし、現在までの解析の結果では、細胞の形態および細胞内タンパクのチロシンリン酸化に有意な変化は認められていない。以上の結果はHPTPηの基質がscr familyのチロシンキナーゼ以外のものであることを示唆し、今後更に基質特異性の検討を行っていく予定である。
|