我々は、増殖因子(IL-3またはGM-CSF)依存性ヒト白血病細胞株F-36Pから新規チロシン脱リン酸化酵素(PTPase)cDNAを単離し、これをHPTPη(Human Protein-Tyrosine Phosphatase η)と命名した。HPTPηは膜貫通型のPTPaseであり、細胞内に1つのPTPaseドメインを持ち、細胞外領域は10個のファイブロネクチン(FN)類似の繰り返し配列を持つ事が判明した。我々はHPTPηがサイトカインによる情報伝達に関与している可能性を検討するために、F-36Pを増殖因子刺激前後で抗HPTPη抗体を用いて免疫沈降し、共沈してくる蛋白質のチロシンリン酸化の変化を検討したが、現在のところ有意な変化は認められていない。この結果はHPTPηがサイトカインによる情報伝達機構に直接には関与しない可能性を示唆しているが、最近ヒト赤白血病細胞株であるHELをDMSO等を用いて赤芽球に分化させる過程でHPTPηが重量な役割を示しているという論文が発表され、今後の検討が必要であると思われる。また、チロシンフォスファターゼは近年癌抑制遺伝子としての役割が期待されている。興味深い事に、HPTPηの遺伝子座位は癌細胞でしばしば欠失が認められるヒト染色体の11番短腕上11p11.2であることが判明した。そこで、各種癌臨床検体および細胞株で、HPTPη遺伝子の再構成をサザンブロットにより検討を行ったが、現在までに再構成の認められた臨床検体および細胞株は認められなかった今後更に症例数を増やして検討を重ねていく予定である。また、モノクローナル抗体を用いて新規白血病およびリンパ球表面抗原の単離同定を行っているスペインのバルセロナ大学の免疫部門のAntoni Gaya博士とアメリカDNAX研究所のStuart Tangye博士との共同研究により、CD(Cluster Differentiation)148と命名された白血球およびTリンパ球膜抗原がHPTPηと同一であることが判明した。この結果は実際にHPTPηがヒト白血球、Tーリンパ球膜上に発現して何らかの働きをしている事を示唆するものであり、現在共同研究によりHPTPηの生物学的機能の解析を行っている。
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