腎糸球体上皮細胞は、細胞骨格の一種である中間径フィラメントに際立った特徴があることが分かった。一般の上皮に見られないビメンチンを多量に含み、さらに、ラットではデスミン、イヌではサイトケラチンが、これに加わっていた。比較系統学的に検討すると、両生類ではデスミン、爬虫類ではサイトケラチンまたはビメンチン、鳥類ではビメンチンが、尿細管上皮に比し特異的に多く存在していた。すなわち、糸球体上皮細胞の中間径フィラメントを多く有するという特徴は、種を超えて共通しており、糸球体上皮細胞の生存、機能の維持に重要であることが推定される。 中間径フィラメントの役割を調べるため、ラットにおけるデスミンに注目し、病的条件下での変化を検討した。馬杉腎炎での抗血清の投与量に並行して、尿蛋白及びデスミンの発現量が増大することが示された。すでに報告したように、アミノヌクレオシド腎症でも、尿蛋白の一過性の増減に一致して、デスミンの増加減少が観察された。これらの所見は、糸球体上皮細胞の状態、特にストレスが負荷されるような状態に応じて、デスミンの増減が調節されていることを示唆している。ビメンチンについても、発生発達過程において糸球体上皮細胞の分化が完成した後になって、その発現量が増大してくることが示された。したがって、ビメンチンの発現も、糸球体上皮細胞の分化形質というよりは環境に依存することが考えられる。 我々は、中間径フィラメントの糸球体上皮細胞における役割として以下の仮説を立てている。糸球体は、細動脈の中にある毛細血管であり、拍動している。また糸球体上皮細胞間にあるスリット膜を通じて約40μm/sの高速度でろ過液が噴き出している。このような環境下で糸球体上皮細胞は糸球体基底膜を被い、複数の毛細血管係蹄壁に突起を伸ばし、拍動及びろ過液によって生じる張力により、常に細胞体の歪みを余儀なくされている。この歪みを引き起こす力は、血行動態が変化し、係蹄壁透過性が高まる病的状態ではさらに増大すると予想される。中間径フィラメントは、細胞骨格の中でも牽引力に対して最も強い耐性を示す。糸球体上皮細胞は中間径フィラメントを多く持つことでこのような歪みから細胞胞体を守っているものと考えている。
|