発生期の腎においては尿管芽により未分化間葉細胞が尿細管に分化し、ついで尿細管の一部のボ-マン嚢と毛細血管から糸球体が形成されます。この糸球体の発生で重要な役割を果たす成長因子を同定し分子レベルで機序を明らかにするために本研究を行いました。 糸球体の発生を一種の血管新生過程と考え文献的に検討したところ、血管内皮細胞成長因子(VEGF)が発生期の糸球体と尿細管上皮細胞に、またそのレセプターが糸球体内皮細胞に強く発現することが報告されていますので、これに着目しました。 12日目胎仔から新生仔までの腎をin vitroで器官培養しVEGF放出量を測定した結果、1.2-5.6 ng/mg(組織重量)であり、その量は腎の発生が進み未分化組織が減少するにつれて低下しました。このことからVEGFが腎糸球体の発生に関与することが強く示唆されました。 次に腎の発生におけるVEGFの役割をin vivoで解析しました。VEGF遺伝子欠損マウスは胎生早期に死亡し腎発生の研究には使えないため、中和抗体を用いました。マウスでは腎の発生が生後2週間続くため、生下時から1週間抗体の投与を続けたところ5日目に浮腫が出現し、6日目の腎組織では糸球体の発生、特にその毛細血管形成が障害されました。抗体は糸球体血管内皮細胞に特異的に沈着し、ボ-マン嚢上皮細胞のVEGF産生は代償性に増加しました。他の臓器および糸球体以外の腎血管に変化を認めませんでした。この結果から、ボ-マン嚢上皮細胞でつくられたVEGFがパラクラインとして血管内皮細胞に作用し糸球体が形成されること、また糸球体は内皮細胞密度が高いためにVEGFへの依存度が他の血管に比べ大きいと考えられました。 本研究の成果は器官形成のみならず腎再生療法へも道も拓くものと考えられます。
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