本研究の目的は、切断肢の再接着可能時間の延長に低温が有効か否かを明らかにすることであった。切断肢の保存状態を評価しその切断肢が再接着可能かどうかを判定するために、体外潅流装置による各切断肢の血管コンプライアンスおよび組織酸素消費量の測定を行った。我々の開発した体外潅流装置は、同系ラットの新鮮な血液で切断肢の組織潅流が行われ、生理的に安定した血行動態が得られるシステムである。還流回路への血液供給源には別の同系ラットを用い、全身痲酔下に人工呼吸器にて呼吸を管理し、動静脈圧をモニターしつつ、大腿動脈と頚静脈に体外循環回路を接続する。本回路は、平成7年度の実験によりその手技が確立でき、平成8年度には対照群である新鮮切断肢に関して、その血管コンプライアンス、組織酸素消費量の測定を終えた。9年度は低温にて24時間保存した切断肢群を作製した。低温保存の温度を4℃と-1℃の2群を作成し、上記項目について比較検討した結果、血管コンプライアンスについては4℃保存の方が-1℃保存よりも優れていたが、組織代謝については逆の結果となった。このことより、-1℃で保存して組織代謝を抑制しつつ4℃保存時のように血管コンプライアンスを良好に保つ方法が必要であることが明らかとなり、今後カルシウム拮抗剤などによる保存方法を検討すべきである。また、切断肢の保存後と再灌流時の筋肉を採取し、組織学的および遺伝子学的検索も行った。遺伝子学的検索として、各組織のmRNAの定量により組織破壊の程度を評価した。その結果、室温保存では筋肉は3時間保存でもすでに変性が始まりこの変化は再還流によって可逆的であったが、6時間保存ではこの変性は再還流後も不可逆的であった。
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