研究概要 |
平成7年度における研究計画に従い、子宮内膜症組織及び正常子宮内膜組織における細胞増殖能を比較検討するめに、婦人科手術摘出材料より両組織を採取し、ホルマリン固定パラフィン包埋切片を作製した。H.E染色切片により、組織学的に内膜症病変の存在を確認し、子宮内膜組織診により月経周期を同定した。各組織切片に対して連続片を作製し、免疫組織的手法を用いて、estrogen receptor(ER),Progesterone receptor(PR).増殖細胞に発現するKi-67,細胞周期調節因子:cyclin.A,B1,E,cyclin依存性kinase:cdc2,cdk2,cdk4および癌抑制遺伝子p53の発現を検討した。正常子宮内膜組織では、性周期の増殖期において腺上皮細胞、間質細胞ともにER,PRの著しい発現が見られたが、分泌期では間質細胞におけるPRの発現を除いて発現が低下しており、receptorのdown regulationが起こっているものと考えられた。一方、子宮内膜症組織では増殖期分泌期を通じて、ほとんどの検体において内膜腺皮、間質細胞ともにER,PRの発現が見られ、明らかなreceptorのdown regulationが認められなかった。また、正常子宮内膜組織および子宮内膜症組織における一定細胞数当たりのKi-67陽性細胞数を算定したところ、内膜腺上皮細胞における検討では、子宮内膜症組織は正常子宮内膜組織よりも陽性率が高く、特に分泌期においてはその傾向が著しかった。子宮内膜症組織におけるcyclin A,B1,Eやcdc2,cdk2,cdk4の発現頻度は正常子宮内膜組織よりも高い傾向を示した。さらに、正常子宮内膜組織ではp53の陽性例を認めなかったが、子宮内膜症組織では18検体中4例にp53の発現が認められた。 子宮内膜症組織は、ER,PRの発現が正常子宮内膜と異なった様式を取ることから、子宮内膜組織とは異なった増殖機序が存在することが推測され、正常子宮内膜組織に比べ、Ki-67の発現、cyclin群の発現が高いことから、正常子宮内膜より増殖能が高く、さらに、癌抑制遺伝子p53発現が見られたことから、子宮内膜症組織の一部には既に遺伝子レベルにおいて腫瘍としての性格を生じている可能性が示唆された。
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