あらかじめ計画していた研究は推進中にあるが、まだ現時点では公表可能な結果は十分には得られていない。Differential Display法によるcDNAクローニング法に関してはプライマー選定上の問題点(再現性の低い不安定PCR産物が少なくないこと)、陽性クローンの再選別時の低い再現性という問題点が明らかとなり、方法・手技の一部修正を余儀なくされた。具体的には、プライマー長の延長、陽性クローン選別時に再PCR増幅を避けて直接シーケンスするという方向に方針転換せざるをえなかった。 さらに、当初の我々の研究開始に当たってその基盤仮説となっていた正所性子宮内膜間質細胞の細胞学的安定性について、これまでの諸家の報告に大きな疑問を持つ実験結果も得られてきた。そこで、現在の我々の研究のひとつに子宮内膜症患者と正常人由来の子宮内膜間質細胞の細胞学的安定性の追試も同時に行っている。これまで内外の論文報告では子宮内膜症患者の子宮内膜間質細胞の性格の違いが指摘されていたが、この事実は間質細胞の細胞遺伝学的背景の変化を支持する一根拠でもあった。我々は多数の患者から間質細胞を分離培養してその細胞学的性格を比較検討してきたが、長時間培養すると内膜症患者由来細胞と非内膜症患者由来細胞の増殖性格や細胞膜抗原性にはほとんど差が認められなくなることが判明した。(未発表データ)。このことは従来の論文報告にある間質細胞の性格変化は、遺伝的異変に因る細胞変化というよりも体内環境の刺激による二次的な変化の差と解釈することができる。
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