研究概要 |
我々は免疫組織学的に正常唾液腺および唾液腺腫瘍組織におけるFGF-1とFGF-2およびFGF-7(keratinocyte growth factor. KGF)の発現を検討し、正常唾液腺ではFGF-1は導管上皮細胞の細胞質に、FGF-2は導管上皮細胞の基底膜側に、FGF-7はstromaにその発現をみとめた。多形性腺腫においてはFGF-1は2層性腺管構造の内層細胞に、FGF-2は外層細胞の基底膜側に、FGF-7はstroma側に発現していた。腺様嚢胞癌においては、比較的分化のよい腺管構造を形成する部分では両FGFとも2層性腺管構造の内層細胞に発現していたが、低分化で充実性の部分ではすべての細胞で両FGFの発現を認めた。このように正常唾液腺では上皮細胞にFGF-1およびFGF-2が特異的に発現していたが、悪性化に伴いFGF-1およびFGF-2は局在性を失ない過剰な発現が認められた。この結果から悪性化に伴いFGF-2の異常発現が伴うことが考えられた。 次に、FGFによる唾液腺腫瘍細胞の自己増殖機構を解明する目的で無血清培養系を用いて唾液腺由来正常上皮(SGE)細胞、多形性腺腫由来腫瘍(PA)細胞、唾液腺由来腺癌細胞HSGおよびHSY細胞におけるFGF-1,FGF-2およびkeratinocyte growth factor(KGF/FGF-7)の機能を検討した。SGE細胞の増殖にとってFGF-1およびFGF-7は必須因子であった。PA細胞はFGF-1およびFGF-7により増殖促進されたがFGF-2にも軽度促進された。一方、HSGおよびHSYはFGF非依存的に自己増殖が可能であり、またその増殖はFGF-1およびFGF-2により促進されたがFGF-7には反応しなかった。免疫組織学的にいずれの腫瘍細胞においても増殖期にFGF-1が核周囲にまたFGF-2は核に強い発現が認められた。さらにwestem blotによる検討の結果、いずれの細胞も18kDaのFGF-1蛋白と18,24,27kDaのFGF-2蛋白を発現していることが明らかとなった。また、これら腫瘍細胞が産生している内因性FGF-1とFGF-2が直接細胞増殖に関与している可能性を解析する目的で両細胞の無血清培養系にFGF-1およびFGF-2アンチセンスオリゴヌクレオチドを添加した。FGFアンチセンスオリゴヌクレオチドはゲノムDNA上の第一イントロンを含むdonor-acceptor siteに設計した。その結果両細胞は両FGFアンチセンスオリゴヌクレオチドによりその増殖が濃度依存的に抑制された。さらに、FGF-1あるいはFGF-2の中和抗体は両細胞の増殖を濃度依存的に抑制した。これらの結果はFGF-1およびFGF-2が唾液腺悪性腫瘍の自己増殖因子として細胞の腫瘍化に関与していることを示唆している。
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