口腔扁平苔癬(OLP)は多くの症例において原因が不明である。われわれは、OLPの発症要因として口腔常在菌の関与を強く疑い、OLPと口腔常在菌との関連を解明する目的で、OLP患者において口腔常在菌の菌体抽出物を抗原とした皮膚テストを実施することをめざし、本研究では動物実験において口腔常在菌菌体抽出物による皮膚反応を行った。OLP患者の口腔内から菌を採取、培養し、レンサ球菌、ナイセリアおよびヘモフィルスを分離した。それぞれを増菌培養し、集めた菌を超音波破砕機で破砕、遠心後、上清を凍結乾燥し得られた物質を菌体抽出物とし、生食水あるいは蒸留水に溶解し、テスト液とした。実験には7〜8週齢の雄のBALB/cおよびC57BL/6マウスを用いた。いくつかの濃度に調製したテスト液の100μlを剃毛したマウス背部の皮下に注射した。また、同様に調製したテスト液100μlを剃毛したマウス背部皮膚にガラス棒で塗布した。その結果、皮下注射ではナイセリアの抽出物300μg以上およびヘモフィルスの抽出物500μg以上の注射により、皮下出血、びらん、潰瘍、壊死などの反応が発現し、組織標本では好中球およびマクロファージを主体とした細胞浸潤が観察され、この皮膚反応はグラム陰性菌のエンドトキシンによる反応と考えられた。レンサ球菌では反応が見られなかった。皮膚塗布ではいずれの菌種においても反応は見られなかった。以上の結果から、ナイセリアおよびヘモフィルスのグラム陰性菌の抽出物はエンドトキシンを含むため、ヒトにおいても一定量以上の皮下注射では皮膚反応が惹起され、またその反応はOLPに見られるTリンパ球を主体とした反応とは異なることが予想された。さらに、これらの抽出物はOLPの原因抗原とはなりがたいことが示唆された。レンサ球菌の抽出物はマウスでは反応を惹起しないことが示された。
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