本研究は個人識別において極めて有用性の高い歯科的所見と、DNA分析による個人識別技法とを結びつけることにより、確実性の高い個人識別法の確立を最終目的としたものである。 1.平成7年度の成果として、amelogenin遺伝子領域を対象としたDNA分析による判別判定において、プライマーの部位を新たに設定し、従来の方法に比べPCR増幅領域を狭めることに成功した。平成8年度においてこの方法を歯牙より抽出したDNAに応用し、その適否について検討したところ、歯髄および歯牙硬組織のいずれから抽出したDNAを用いても、血液試料の場合と同様に明瞭な性別判定が可能であった。これにより従来までの血液中心の方法を単に歯牙に応用するのではなく、より積極的に歯牙抽出DNAの特異性に適合した性別判定を行うことが可能で、歯牙の個人識別における役割はさらに大きな意味を持ったと思われる。今後は本法の適用範囲を乳歯にまで広げ、より低分子化したDNAを対照とした検索を続けていく。 2.これまでに報告された個人識別の指標と成り得る遺伝子座位のうち、PCR法による増幅バンドが小さいD4S43 locusを対照としたVNTRの変異について、歯牙抽出DNAを用いた検討を試みたところ、申請者がすでに得ている血液試料のデータとは異なり、歯牙硬組織においては、大きなサイズの増幅バンドは検出することができなかった。しかしながら、14塩基の繰り返し数1と言われる最も小さい184bpのバンドについては、いずれの試料からも検出することが可能であった。すでに申請者は、血液試料から、この184bpのバンドの中にはさらにサイズの微妙に異なる4種類のバリエーションが存在することを見出しており、これを応用すれば、十分に歯牙硬組織抽出のDNAからも、このVNTRの変異による個人識別が可能であることが示唆された。今後さらに、シークエンスゲルによる分析等を試み、変異の再現性を検討していく。
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