PC12細胞とPC12D細胞の産生する糖蛋白質のポリラクトサミン糖鎖の違いを再確認するとともに、その違いが糖質の代謝速度の違いによるものではなく糖鎖の量的(化学量)の違いを反映したものであることを明らかにした。すなわち、[^3H]-glucosamineで糖蛋白質の糖鎖部分を、また[^3H]-threonineでペプチド部分を代謝標識して、これまでと同様にTriton X-114による相分離を利用して細胞膜蛋白質を分離して糖ペプチドに取り込まれた放射活性から比較した。その結果、PC12細胞とPC12D細胞の膜蛋白質の全蛋白質に対する割合は、それぞれ11.6%、13.8%となり、細胞の形態の扁平なPC12D細胞で若干の増加が認められたが蛋白質に取り込まれた[^3H]-threonineの比活性は約1.2x10^7dpm/mgと等しい値を示し、取り込まれた[^3H]-threonineの放射活性は蛋白質の量を示していることがわかった。プロナーゼ消化後のSephadex G-50のvoid領域に溶出される高分子量の糖ペプチドに取り込まれた放射活性を比較したところ、[^3H]-threonineの場合、PC12D細胞では約45%に減少していたことから高分子量の糖鎖が約半分であった。一方、[^3H]-glucosamineのその画分への取り込みは約25%であった。従って、PC12D細胞ではポリラクトサミン鎖を有する糖ペプチドが量的に少ないのみならず、ポリラクトサミン鎖の長さも相対的に短いものであることが分かった。 代謝標識実験と平行して、膜蛋白質由来の糖ペプチドを分離後、ヒドラジン分解を用いてN-グリコシド型糖鎖を遊離させ、糖鎖の還元末端を2-aminopyridineで蛍光標識して比較しようと試みた。ピリジルアミノ化されたポリラクトサミン糖含有糖鎖のHPLC上での分析した結果、数多くのピークが示されPC12細胞とPC12D細胞とでクロマト上のパターンの違いが数多く認められた。しかしながら、標準物質がないために糖鎖の量と大きさをHPLC上のパターンから比較することは不可能であった。 次に、細胞表面の糖蛋白質ポリラクトサミン鎖の変動を起こさせる原因が何であるかを、ポリラクトサミン鎖の生合成にかかわる糖転移酵素活性を測定した。その結果、N-アセチルグルコサミン転移酵素(GnT-i)の活性が、NGF処理PC12細胞とPC12D細胞で共通して減少していることが認め、その活性低下の程度はポリラクトサミン含量糖鎖の減少とよく一致し、ポリラクトサミン鎖の量的な減少と糖鎖の相対的な短さはGnT-i活性によって制御されている可能性が明らかとなった。
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