研究概要 |
末梢神経の性質をもつ副腎髄質由来のクロム親和性細胞PC12とその変異株で神経成長因子(NGF)に対して感受性の高い細胞(PC12D)を材料として用いて、細胞表面に存在し分化に関わる糖鎖(ポリラクトサミン鎖)を明らかにした。 PC12細胞に神経成長因子(NGF)を添加することにより誘導される神経突起形成時に認められる細胞表面の糖鎖の変動と、PC12細胞由来の変異株細胞で分化の初期段階をすでに獲得した状態であるとされるPC12D細胞のもつ糖鎖の状況が一致すれば、それが神経細胞の分化と細胞形態の変化にかかわる糖鎖となり、糖鎖の持つ生物学的な機能を探ることが可能となると考えた。糖鎖の代謝標識実験による糖ペプチドの解析と細胞表面のレクチン染色による結果から、PC12細胞にNGFを添加すると、神経突起の形成が認められる前にポリラクトサミン鎖を有する高分子量の糖鎖の合成が減少すること、PC12D細胞ではその糖鎖の含量が著しく減少していることが認められた。 糖鎖生合成の減少の原因についてポリラクトサミン糖鎖の合成にかかわる三つの糖転移酵素の活性を測定し、PC12細胞でのNGF処理の有無による変動とPC12D細胞の活性値低下の有無を調べた結果、一般にポリラクトサミン糖鎖生合成のkey酵素とされるGnT-Vの活性には違いが認められず、ポリラクトサミンの量的な変化と、糖鎖の伸長酵素として知られるβ1,3Nアセチルグルコサミン転移酵素の活性とがよく一致した。ポリラクトサミン糖鎖を持つ糖蛋白質を特定するためにレクチンカラムを用いて分離しendo-β-galactosidaseによって低分子化する糖蛋白質を特定したところ、少なくとも三種類の糖蛋白質の存在が推定された。現在、それらの糖蛋白質を識別するためにモノクローナル抗体を作製している。
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