先天性無痛無汗症は、常染色体性劣性遺伝型式をとり、その原因は不明である。この疾患の原因を明らかにするために、神経成長因子受容体遺伝子(TrkA)を取り上げ、検討してみた。正常者および患者のリンパ芽球から遺伝子DNAとmRNAを抽出し、これらをテンプレートにして、PCR法やRT-PCR(reverse transcriptase PCR)法により、各遺伝子フラグメントを増幅した。これを、プラスミドベクターにサブクローニングした後、塩基配列を決定し、患者に遺伝子変異が存在するかどうか検討した。我々が最初に診断したCIPA患者について調べたところ、変異が認められた。しかしながら、この患者は複合ヘテロ接合体であることが予想された。そこで、明らかな結果を得る目的で、両親に血族結婚のある症例を選び出し、TrkA遺伝子について調べてみた。この症例は、弟もCIPAに罹患していた。TrkAのC-末端645bpをコードするcDNA領域をRT-PCR法により増幅したところ、患者では498bpと404bpのDNAが得られた。一方、コントロールでは645bpのDNAが増幅された。弟では、患者と同様の結果が得られた。両親では、患者で認められた2本のDNAとコントロールと同一サイズのもの、合計3本が増幅された。患者で得られた2本のDNAは、TrkA遺伝子の1個のエキソンとその一部をそれぞれ欠失していた。患者の遺伝子DNAについて、エキソン-イントロン接合部の塩基配列を調べたところ、欠失するエキソンの3'側イントロンの3番目の塩基Aが、Cに置換されていた。また、患者およびその家族を調べることにより、この変異について、患者と弟はホモ接合体であり、両親はヘテロ接合体であることが示された。患者では、イントロン内の遺伝子変異によりスプライシングの異常が起こり、5'側のエキソンとその一部が欠失すると考えられた。本研究により少なくとも一部の症例ではTrkA遺伝子に異常があることが明らかになった。
|