研究課題
昨年度のラットを用いた実験から、吸引により人為的に剥奪した細胞は集塊で存在することが確認できた。そこで今年度は呼吸器疾患がなく気管切開後1週間以上を経過している患者2名を対象に、研究の趣旨を説明し承諾を得た上で、必要が生じたときに各3回、計6回の吸引を実施した。吸引方法は昨年度と同様で吸引圧は400mmHgとし、吸引チューブは3孔式を用いた。標本の作成方法としては、吸引された痰に等量の2%グルタールアルデヒドを加え、冷蔵庫で2〜4時間固定した後2500回転で10分間遠心し、粘膜に包まれた状態で細胞を沈殿させ、0.1Mリン酸緩衝液で3回洗浄し、過剰のグルタールアルデヒドを除去した。その後、70、80、90、95%エタノールで脱水し、グリコールメタクリレート樹脂で包埋した。この痰の全範囲をガラスナイフを用いて厚さ1μmに薄切しマロリ-アザン法により染色した。また、一部の標本についてはアルシアンブルー染色法により粘液多糖を染め出した。その結果1名の3検体の吸引痰からは多数のリンパ球や好中球が確認されたが、それ以外に上皮系の細胞は確認されず細胞の集塊も認められなかった。もう1名の1検体については前者同様細胞の集塊は認められなかったが、2検体についてはリンパ球、好中球等以外に上皮系由来と思われる細胞群が一定の配列をなして存在し、その周囲を青色に染色された線維様構造が取り巻く像が散在的に確認された。しかし、それらの細胞群の核、細胞質はかなり融解しておりいずれの細胞にも線毛が確認できない結果であったため、吸引前に脱落していた細胞群の可能性が高いと判断した。以上の結果から400mmHgの吸引圧を用いても、吸引チューブの構造や気管支粘膜の損傷を妨げるために吸引チューブを回転させるといった基本的な操作を確実に行うことにより、短時間で安全かつ効果的な吸引が実施できる可能性が示唆された。