咀嚼運動からみた食品テクスチャーの生理的意味を明らかにするために、寒天およびゼラチンゲルをモデル食品に使用して検討を行った。モデル食品のテクスチャーは、テクスチュロメーターで測定した。被験者に顎および口腔領域に異常の認められない成人男女各7名ずつを選定し、テクスチャーの異なる食品を咀嚼した際の一連の咀嚼運動様式を、POLYTRON 1000(新潟大学歯学の装置を借用)を使用してX線ビデオ撮影し、画像解析した。モデル食品の硬さが増加するに伴い、ヒトの咀嚼様式は舌と硬口蓋による圧縮から、歯列による咬断へと変化した。圧縮から咬断へと変化する硬さの閾値は、寒天ゲルで0.08kg、ゼラチンゲルで0.03kgであり、歪の大きいゼラチンゲルの方が、咬断開始の閾値は小さかった。また、圧縮から咬断への変化点となる食品の破断応力は、150〜250g/cm^2の範囲であった。ヒトが摂取した食品のテクスチャーを認知するメカニズムについて、以下の事実が明らかとなった。ヒトは、食品を補捉すると直ちに舌によって食品を切歯乳頭部近傍に押しつけてわずかに圧縮(変形率:18%)することにより、摂取した食品のテクスチャーを認知した。続いて、やわらかい食品の場合には、そのままの位置で舌と硬口蓋による圧縮粉砕を行った。一方、食品が硬い場合には、舌によって食品を臼歯または大臼歯などの歯列部位に移送し、そこで咬断粉砕を行った。以上のことより、ヒトは摂取した食品のテクスチャーを切歯乳頭部近傍の感覚受容器により認知し、その認知された情報に応じて、咀嚼運動様式を圧縮粉砕または咬断粉砕にと変化させていることが推察された。食品テクスチャーの違いによってヒトの咀嚼運動様式は大きく変化するため、口腔外で機器により食品テクスチャーを測定する場合には、ヒトが行うと予測される咀嚼運動を模した方法で、条件設定を行う必要があると考察された。
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