まず、7年度の実績報告書においては、当初の研究代表者が他界したことにより、研究がやや遅れ気味であり、もとより7年度の計画であったリタイアメントに関する質問紙調査の分析結果を報告するには至らず、この分析は、8年度に行うケーススタディ(当初の予定では面接法)と連関的に進めていく予定と報告した。しかしながら、本年度にそれを進めるにあたり、ケースを集めること自体困難であったことにもより、質問紙調査では捉えきれないユニークなデータを得ることがあまりできなかった。それでは本研究上のリタイアメントに関するケーススタディの意味が薄れるため、その方法としては、面接法よりもむしろスポーツ選手のリタイアメントについて記述したユニークな文献からデータを収集し、それを基礎に考察を進めていったほうが有効と判断した。要するにケーススタディの方法を変更したわけである。それについては9年度中にまとめる予定である。そこで以下では、リタイアメントに関する調査から本年度に得られた知見の概要を報告したい。 主に、スポーツ選手のリタイメントについて、前年度分析中であった過去の大学一流選手1300名(回収率約5割)を対象に行った質問紙調査の分析結果についてである。種目は計画通り、個人種目として陸上(日本の大学陸上界で伝統的にトップレベルにある1大学のOB)、集団種目としてサッカー(同じくトップレベルにある3大学のOB)であった。 彼らは大学時代、生活の多くを犠牲にして競技に取り組んでおり、4割以上が将来一流選手になることを強く願っていた。2割は、大学への進学はスポーツの推薦入学であった。8割近くが大学卒業後も実業団や教職員チーム等で競技者として活動を続けていた。引退の決断は自発的なもので、体力や意欲の減退、時間的な制約等が主な理由であった。多くは、競技生活についての後悔の念を抱いていなかった。引退後の職業生活の準備を事前に行っていた者は2割に満たなかったが、競技に打ち込んでいたことに由来する職業生活上の困難を感じている者は少数であった。これは、多くの者が体育・スポーツに関わりのある(競技世界に関連する)職業を得ることができたためと考えられる。
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