昨年度に続いて断層を横切る小河川の縦断形計測を行うと同時に、東京都立大学の水文地形実験室において水路実験を開始した。野外での計測は、やはり人工改変の少ない河川を見つけることに苦労したが、南伊豆石廊崎断層の西端部を横切る小河川および中伊豆の水抜-与市坂断層を横切る小河川において縦断形を計測することができた。どちらも屈曲区間の上下端に遷緩点(緩勾配となる点)が見られ、前者では屈曲区間全体の縦断勾配が大きく、後者では小さくなっていた。下流側の遷緩点はその形態から断層による変形以降の侵食が比較的進んでいることを表し、上流側の遷緩点は横ずれ断層よる勾配の変形を示しているようである。屈曲区間の縦断勾配の違いは、比較的緩傾斜である前者の河床には直径1mを越える巨礫がかなりあるが急勾配の後者にはないことから、上流側遷緩点での礫の堆積状態の反映と考えられる。このように、今回計測した伊豆半島の小河川の変形は断層による横ずれのみで説明できそうである。横ずれ変形だけでは説明が難しかった昨年度の河川については、縦ずれ成分を考える必要がある。実験は、水路中に砂と粘土を混ぜたものを幅約30cm、長さ約6m、厚さ約10cmにしきつめて流路を作り、この流路の中央、長さ約6cmの区間を横にずらすことができるようにした装置を作成・使用した。現在、700ml/minの流量で河床物質の移動がほとんどなくなるまで侵食を進めた後、2時間の通水について2cmの割合で流路をずらし、縦断形や横断形の変形と流路の反応の様子を計測している。実験の条件を決める予備実験に非常に時間がかかったため、1997年3月時点でまだ一回目の実験途中である。今後、変形の速度を変えて何回か実験を行い、野外での計測結果の解釈に役立てるつもりである。 なお、昨年夏までの研究成果は、1996年8月に米国コロラド州ピングリーパークで行われた "Bedrock Channels Conference" にて "Longitudinal Profiles of Small Bedrock Channels Flowing Across Active Faults" と題して発表され、多くの研究者の興味を集めたことを報告しておく。
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