研究概要 |
本研究の目的は,STS教育という新しい教育運動の理念を取り込んだ生涯学習体系を確立する可能性を探ることにある。初年度においては以下の点を明らかにした。 (1)科学技術のファクターが大きく浸透している現代社会において,科学技術のあり方を考察することは,現代社会を考察することに等しい。論者によって「STS」という用語が多様に用いられている状況であることから,その意味的定義を気にすることなく,多様なSTS教育実践が待たれている(大辻1996)。 (2)日本の生涯学習政策に見られる生涯学習体系は,フォーマル型,インフォーマル型,ノンフォーマル型の三者の統合システムとして策定されている。そのような生涯学習体系においては,科学技術は自生的に自己発展していくものとして捉えられている。このような科学技術観に基づく生涯学習体系では,市民は常に,科学技術に対して受け身の立場に立たざるをえない。したがって,市民は,科学技術の方向性に関する意思決定に参画する主体者としては捉えられていない(小川1995)。 (3)科学技術の方向性の決定に主体的に参画できるようになることを目指すSTS教育を実践するには,既存の生涯学習体系で言われている科学技術観とは違った立場に立つ必要がある(小川1995)。 (4)数年前にSTS教材作成実習を履修した社会教育主事講習会の参加者のSTS教育に対する意識が,現在どのように変容しているのかを追跡調査した。その結果,STS教育という用語は忘れていても,その内容は予想以上に記憶されていることが明らかになった。(小川1996)。 なお,次年度は,具体的に,生涯学習用STS教育プログラムをいくつか試行し,評価する。
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