研究概要 |
本研究の初年度の目標は,意味と形態との中間を統べる「意味形態論」(ドイツ語学者:関口存男提唱)をコンピュータに移植し,人間が意味疎通するために最低限必要とされる基本語彙(約1200語)からなる文章を,ほぼ完全な形で機械翻訳可能なシステムを作り上げることにあった.この際,数年前から手がけていた独和辞典(白水社:『パスポート独和辞典』.本年1月完成)編纂時に作成された単語記述のうちから,最重要単語としての1300語を,本研究に再利用することができた.また逆に,本研究によって明らかにされた数々の意味形態(とりわけ前置詞の意味形態)を,上記独和辞典に反映することもできた.その他,本研究により得られた新たな知見として, 1.従来の文法記述の曖味さを払拭するには,文法形態に依拠した文法記述と,意味内容に依拠した文法記述を峻別することが重要である. 2.意味形態論は,「主観的な語感」を「客観的に描写するための方法論」であり,従って新たな意味形態を抽出するには,多くの実例に拠らなければならず,そのためには,テキストデータベースを十全に活用する必要がある. 3.意味形態をプログラミング上で実現するには,プログラミングのテクニックを習得しておくのはもとより,意味形態論的言語観をも,言語学的訓練により身につけておかなければならない.従って,どの外国語であれ,その外国語で通常の知的レベルに達するには,最低数万語の語法を意味形態論的見地から把握しておくことが,質の高い機械翻訳システム制作の前提条件となる. などが挙げられよう.
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