研究概要 |
本研究の初年度の目標は,意味と形態との中間を統べる「意味形態論」(ドイツ語学者:関口存男提唱)をコンピュータに移植し,人間が意志疎通をするために最低限必要とされる基本語彙(約1200語)からなる文章を、ほぼ完全な形で機械翻訳可能なシステムを作り上げることにあった.この際,本研究により得られた新たな知見として, 1.従来の文法記述の曖昧さを払拭するには,文法形態に依拠した文法記述と,意味内容に依拠した文法記述を峻別することが重要である. 2.意味形態論は,「主観的な語感」を「客観的に描写するための方法論」であり,従って新たな意味形態を抽出するには,多くの実例に拠らなければならず,そのためには,テキストデータベースを十全に活用する必要がある. 3.意味形態をプログラミング上で実現するには,プログラミングのテクニックを習得しておくのはもとより,意味形態論的言語観をも,言語学的訓練により身につけておかなければならない.従って,どの外国語であれ,その外国語で通常の知的レベルに達するには,最低数万語の語法を意味形態論的見地から把握しておくことが,質の高い機械翻訳システム制作の前提条件となる. などが挙げられよう. 二年度の目標は,基本語彙を拡張して,約5000語とし,質の高い機械翻訳を実現するにはいかなる意味形態の抽出が必要なのかを検証することにあったが,これは難航を極めた.その理由は, 1.意味形態は,具体的な局面においてのみ把握可能な認識形態であるがゆえに,データベース等を駆使して,多くの実例に就く必要がある 2.この意味形態は,極めて微妙なニュアンスを描写するものであるがゆえに,これを効率良くプログラミングするには,高度なプログラミングのテクニックを必要とする 等を挙げる事ができよう.筆者は,自らプログミング可能な意味の専門化として,本研究を推進し,当初の目的の7割り程度の成果を収める事ができた.今後も,さらに質の高い,さらに語彙数の豊富な独和機械翻訳システムの完成を目指していく.
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