本年度の目的は地域問題解決に向けての合意形成モデルとその評価枠組みの構築である。価値意識が多様な社会では、合意形成の条件に社会的公正の視点が重要なカギを握ることが明らかになったため、合意形成の評価を経験主義者的な発想に帰するのではなく、地域社会の創造的学習の結果として捉えるという立場をとる。今年度の研究成果を整理すると、以下の通りである。 (1)社会的問題解決に社会的公正という視点を加えることによって、短期的に「真」の問題解決が得られる可能性が期待できること。 (2)拡張学習システムを社会的合意形成に用いる場合、拡張の意味は社会的公正に根差した代替案の発見として概念的に考えることが可能で、従来の信念修正の学習モデル(例えばベイズ学習)は社会的効率の向上に適合すること。 (3)合意形成モデルは、学習モデルとして発見的学習および信念学習から構築し、その評価として分配的公正の手続き的解釈の論理を用いて構築したこと。 捕捉すれば、人間社会は長い歴史を通してその制度が作られるのであって決して恣意的なものではないという経験主義的な立場をとると、本研究は恣意的に合意を形成させるということになって、長期的な問題解決には至らないという意味で意義が薄れてしまうが、社会的問題解決に社会的公正という視点を加えると、この概念自体が経験主義的に得られたものだと考えられるから、たとえ分配的公正にもとづく恣意的な合意形成を試みたとしても、「真」の問題解決が得られる可能性は期待できる。
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