本年度の目的は社会的公正からみた合意形成モデルの構築と社会的地域問題解決のためのシミュレーションモデルの構築である。社会的公正をモデル上で考える際に注目したことは、資源配分に関する規範的な側面と自己責任の論理である。前者については、様々な社会的状況において、弱者に対する資源配分の必要性について、その強度を社会的集約関数の凹性の強さとしてとらえた。結果は、先天的/不随意的な弱者に対する凹性の強さが際立つ。すなわち、J.ロールズの公正原理である格差原理は、不随意的な弱者において現実的に説得力をもつ。そこで、社会の諸問題においては、R.ドウォーキンの自己責任の論理による公正理論が現実的である。すなわち、不随意的な部分での平等配分と随意的な部分での自己責任的配分である。我々は、自己責任のモデル化をおこない、それが丁度功利主義的配分と格差原理にもとづく配分との中間に位置することを論理的に示した。合意形成モデルに必要なもう一つの視点が、「誤認」の問題である。ゲーム理論研究者はこれは不完備情報ゲームの一種ととらえるが、我々は前年度(平成7年度)の研究の評価にもあるように、ベイズ学習的な合意モデルを想定しない。むしろ、問題発見的モデルでとして、ハイパーゲームによる学習分析を行う枠組みを提示した。 最後にシミュレーションモデルの構築の準備として、参加型モデリング技法の数理的な形式化をおこない、そこでは、いくつかの合意形成手法を取り上げて、その数理的特徴を述べ、最終年度に行う予定であるシミュレーションモデルの評価枠組みの指針をつくった。
|