本研究は、乳幼児の生活環境のひとつである幼稚園・保育所の室内の音響環境を定量的に解析することを目的とした。 まず、1)幼稚園・保育所における保育室内の音響特性はどの様なものであるのかを、公立や私立の幼稚園・保育所について、実際に測定した。さらに、2)乳幼児と教師・保母が快適と感じる室内の音環境モデルはどの様なものであるかついて調べるために、実際に教師・保母の保育している日の騒音暴露量を調べた。 その結果、全施設のL50値の範囲は55dB〜85dBで、幼稚園では65dB〜85dB、保育所では60dB〜75dBで、やや個別の差異はあるものの、幼稚園がほぼ5dB程度高いレベルが観測された。LMAX値は75dB〜100dBとかなり大きなレベルであった。保母・教師に装着してもらった騒音暴露量からのL50の数値は、60dB〜90dBの範囲に集中しており、その範囲は幼稚園は70dB〜85dB、保育所では65dB〜85dBでほとんど差がなかったものの、保育所が幼稚園に比べやや下回った。乳児の活動内容との関連で見ると、主な音源は乳児の泣き声や幼児の叫び声が重複したり、堅い素材の遊具の床への衝突音など遊びの活動に伴って発生した音であった。保育者に装着した騒音暴露量からのL50値と室内騒音レベル(L50)を比較すると、両施設とも5dB程度上回った結果であった。この暴露量としての60dB〜90dBの値は「工場内の音」にも匹敵する音量とも言え、保母・教師は保育時間中に常にこうした音に晒されていることが示された。 今回実験を行った幼稚園・保育所の中には、保育室内の反響音や環境音に関しての悩みを持つ園が多く、解決の糸口を見いだそうとしている動きもみられる事が分かった。測定の結果は保育者だけでなく乳幼児にとっても、保育室内が快適な音環境とは言いがたい状況と考えられる。長時間保育の動きの中、保育者だけでなく乳幼児にとっても、保育室内の反響音の吸収など建築上の何らかの早急な対策が望まれる。
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