本研究の目的は、水銀などの重金属によって汚染された廃水等を浄化するために、細菌細胞内に合成されたポリリン酸と重金属の結合系を遺伝子工学的に構築することである。 平成7年度においては、まずポリリン酸合成遺伝子の安定発現の可能な細菌へのクローニングを行った。細菌のポリリン酸キナーゼ遺伝子(ppk)は腸内細菌の一種であるKlebssiella aerogenesより既にクローニングされているものを使用したが、これまでこの遺伝子を安定して発現し且つ継代培養によっても遺伝子脱落を生じない大腸菌は見つかっていなかった。本研究では、他種類の大腸菌株にこの遺伝子を形質転換したところ、大腸菌のある種のもので安定発現株が得られた。この組換え大腸菌は、遺伝子を保持しての増殖が安定しているだけでなく、凍結保存にも耐え増殖復元性にも優れていた。したがって、本研究における実験の進展に大いに活用できるものと考えられる。また、得られた安定発現株のリン酸の取り込みは対照大腸菌に比較して満足できるほど高いものであった。 ppkの他に細菌細胞内にリン酸を能動的に取り込むための遺伝子群であるpst operonを同時に大腸菌にクローニングすることを試みたが、現在までのところこのような大幅な遺伝子群を同時に安定して発現できる大腸菌株は得られなかった。したがって、次年度以降はppk遺伝子のみをクローニングした大腸菌にポリリン酸を合成させて、これと当初の目的である水銀摂取系との組み合わせによる重金属高度蓄積除去微生物の分子育種に取り組みたい。
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