1.アクチンフィラメントの定量的相図の作成 分子間力と濃度をパラメータとしたアクチンフィラメントの定量的な相図を作成した。このような相図は、アクチンフィラメントがとるさまざまな集合構造中での物質輸送を研究する際の基礎になる。この相図から、アクチンフィラメントは分子間力がサブユニットアクチンあたり0.006RTだけ増加すると「ゾル」状態から「パラクリスタリン」状態へ、濃度が2mg/mlをこえると「リキッドクリスタリン」状態へ転移することが明らかになった。また、「ゾル」状態から「パラクリスタリン」状態への変換の過程で、動的安定状態として「ゲル」状態が存在する。これらは、「棒状」高分子としてのアクチンフィラメントの熱力学的、動的性質を反映したものと考えられる。また、アクチンフィラメントを架橋するアクチン結合タンパク質(ABP)は、アクチンフィラメントの「ゲル」状態を安定化し、アクチンフィラメントの成長端をゲルゾリンなどのキャッピングタンパク質でキャップすると「ゾル」状態から「パラクリスタリン」状態への変換に必要な分子間相互作用のエネルギーが増加することが明らかになった。 2.アクチンゲル中での物質輸送の測定 アクチン溶液中での物質輸送を測定する装置のプロトタイプを作製した。それを用いて、上記の相図で明らかになったさまざまな集合状態にあるアクチンフィラメント溶液中での浸透圧の不均衡に伴う水分子の輸送速度を測定した。その結果、アクチン溶液のゲル化にともない、溶液内での水分子の輸送が完全に抑さえられることなどの定性的ではあるが、興味深い結果を得た。現在、プロトタイプに改良を加え、アクチンゲル中での物質輸送の定量的測定が可能な装置を作製中である。
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