研究概要 |
本研究課題は高圧下でのX線溶液散乱技術の開発とその蛋白質測定への応用の2つの目的がある.技術の開発では,3000気圧以上での圧力での,圧媒であるケロシンのサンプル室内への混入を防ぐために,フリーピストンを使わない方式を考案した。また蛋白質測定では,昨年予備実験で,ミオグロビンが圧力変性時での回転半径の変化する事を発見したが,今年度は,その追試実験を行った。これにより,酸性条件下でミオグロビンの回転半径は2000気圧を境に17.5Åから21.5Åへ変化するのを確認した。高圧変性時の回転半径、21.5Åはすでに報告されている変性剤変性の値約30Åに比べきわめて小さく、モルテン・グローブル状態の値に近い。変性の可逆性等の問題はまだ完全には解決できていないが、今回世界で初めて圧力変性をX線散乱法で観測することに成功した。さらに,SAXS実験との比較や,サンプル探索のために,FT-IR分光法を用いた各種蛋白質の2次構造に及ぼす圧力効果の実験を行った。ミオグロビンを用いた実験では,2次構造の変化とSAXSで得られた回転半径の変化の挙動はほぼ等しいことが確認できた。β-ラクトグロブリンの高圧FT-IR測定では,2000気圧の圧力範囲で,2次構造の完全な可逆的破壊を観測することができた。ミオグロビンでは完全な可逆性を得られなかったことを考えると,β-ラクトグロブリンを用いた研究ではより詳細な構造化学的研究が行えることが期待できる。現在,β-ラクトグロブリンの高圧SAXS測定を計画中である。
|