本研究では、従来の運動・行動異常に基づくミュータントスクリーンでは見つけられない様な、神経系の発生・機能に関与する新たな遺伝子を同定することを目的とする。この目的のため、線虫Celegans個体へのcDNA導入・発現を行う実験系を作製し、cDNAのスクリーニングを行った。 I.発現ライブラリーの作製 1)cDNA合成 各発生段階を含むC.elegans集団由来のpolyA+RNAよりoligo-dTをプライマーとしてcDNAを合成した。このcDNAを線虫spliced leader配列とoligo-dTに付加したタグ配列をプライマーとしてPCRを行い完全長cDNAを増幅する予定であったが、cDNA集団内の約500bpのcDNAのみが選択的に増幅されてしまった。そこで当初計画していた完全長cDNAを得ることはあきらめて、逆転写産物をそのまま後述の発現用ベクターに組み込むことにした。 2)発現用ベクター 当初、神経組織特異的発現用に予定していたunc-31遺伝子は不都合があることが明らかになった。遺伝研、石原健博士よりいただいた神経系特異発現を示す発現調節領域(H20)、および九州大学理学部大島靖美博士よりいただいた汎組織発現をしめす線虫elongation factor 1α gene(EF)の発現調節領域をもとにして発現ベクターを構築し、それぞれ約60万独立クローンから成るプラスミドライブラリーを作製した。 II.検索 ライブラリーを分割してプラスミドプールを作製し、線虫個体に導入し、形質転換系統を検索した。 H20約3000クローン相当のプール中には運動異常・神経系の形態異常を示す系統はなかった。 EF約3000クローン相当のプール中に、F2で不稔・陰門突出・運動異常の表現型を示す系統が1つ存在した。しかし、この表現型をもたらすクローンを同定することはできなかった。
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