c-myc標的遺伝子を探すために申請者は通常取られている転写因子研究とは逆に方向を取った。すなわち、c-Myc蛋白質が結合できるDNA配列CACGTGを持っている遺伝子を近年急速に蓄積している遺伝子配列のデータベースより探し、その結果RCC1遺伝子に注目した。RCC1は様々な核機能に関係している重要な核蛋白質であるが、c-Mycとの関係を示唆する報告は全くなかった。RCC1遺伝子発現へのc-mycの影響を調べた結果、1、ランダムに増加している状態では外来c-mycを高発現している細胞は約2倍のRCC1mRNAを発現していた。2、静止期から細胞周期を進ませたとき対照細胞ではRCC1の発現はG1/S境界またはG1期の後期で上昇していたがc-myc高発現細胞ではG1期のごくはじめから促進されていた。このことはc-myc高発現が細胞周期を速く進めた結果RCC1の発現が促進されたのではなく、RCC1発現上昇はc-mycによるより直接的な影響であることを示している。3、c-mycにエストロゲンレセプターの一部を繋ぎエストロゲン感受性を付与したキメラ蛋白質を発現する細胞を作製した。静止期に集めたこの細胞をエストロゲン処理しc-Mycを活性化するとRCC1の発現上昇が観察された。以上の結果はc-mycがRCC1の発現を促進することを示している(1995年細胞生物学会発表、論文投稿中)。c-Myc蛋白質結合DNA配列を持っている遺伝子に注目することから研究を始め、c-mycがRCC1の発現を調節しているという重要な知見を得ることができた。今後本研究の方法によりさらなる新たなc-myc標的遺伝子が同定されることが期待される。さらに申請者は試験管内でc-Myc蛋白質がRCC1遺伝子中のCACGTGにけつごうすること、またc-mycによるRCC1発現上昇にCACGTG配列が関わっていることを確かめつつあり、今後これをさらに詳細に検討する予定である。
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