本報告書で扱う新規蛋白質は、動原体領域に由来するアルファサテライト含有genomic DNAに結合する性質を有し、その発現パターンは精巣特異的である。したがってこの蛋白質は減数分裂過程における染色体分配に関与している可能性がある。前年度においては、この仮想的動原体蛋白質の全アミノ酸配列を明らかにするため、この蛋白質をコードする遺伝子の転写産物cDNAを完全長で単離することを試みた。いわゆるlong distance PCRを援用してRACE法によるcDNAクローニングをおこない、3.2kbにおよぶcDNAを回収した。RNAブロットハイブリダイゼーションから推定されるmRNAサイズは3.4kbなので、ほぼ完全長のcDNAが単離されたと判断した。 また、今回新たに得られた5′側cDNAをプローブとしてRNAブロット分析をおこなったところ、従来から観察されていたmRNA以外に、より短いRNA分子種が検出された。同一遺伝子からのaltemative transcriptか、あるいは類縁遺伝子由来の転写産物なのかは不明であった。 本蛋白質の細胞内での局在、特に染色体との相互作用部位を同定する目的で、cDNAの塩基配列から予想されるアミノ酸配列の一部を人工合成し、抗オリゴペプチド抗体の作製をおこなった。免疫血清を用いると、ウエスタンブロッティングにおいては予想される分子量の蛋白質を検出したが、組織標本では明瞭なシグナルを得ることができなかった。作製した抗体が完全に変性したエピトープのみしか認識しない可能性が考えられ、現在組織標本の調製法を変えながら本抗体の適用できる条件を検討している。
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