私はrasがん遺伝子産物(Ras)がシステイン・プロテアーゼを直接阻害することを発見した。そこで本研究はRasのこの活性が発がん過程に関与しているかどうかを明らかにすることを目的として次のようなプローブを用いて解析した。(1)Rasと同様にシステイン・プロテアーゼ阻害活性を持つがGTP-結合活性をもたない可溶性蛋白質、シスタチン、(2)Ras蛋白質の生物学的活性にはC末端にファルネシル化の修飾を受けるCAAXモチーフが必要であるので、シスタチンにCAAXモチーフを結合させたシスタチン-CVLS、(3)Ras蛋白質のアミノ酸42番目から49番目が欠損した変異体、RasD42-49。この変異体はGTP-結合活性やRaf-1-結合活性が欠損しているシステイン・プロテアーゼ阻害活性は野生型のそれらと同程度である。これらの蛋白質の遺伝子をNIH3T3細胞に導入し、トランスフェクト細胞を単離した。導入された遺伝子はデキサメサゾンの処理により高発現が誘導された。この時に細胞が基質非依存性にトランスフォオームしたがどうかを調べるために軟寒天中でのコロニー形成実験を行なった。すると1〜3の遺伝子の発現のみではトランスフォームしなかった。ところが発がんプロモーター、TPAの存在下で2および3の遺伝子を発現すると高いコロニー形成率が観察され、トランスフォームしたことが判明した。1の遺伝子は中程度のコロニー形成率を示した。これらのことから、膜分画においてシステイン・プロテアーゼを阻害することがイニシエーションの変化を誘導するに十分であると推定された。
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