研究概要 |
従来、成熟動物の大脳を組織培養することは困難とされてきた。しかし我々のこれまでの実験によれば生後3-4週令のラット大脳皮質視覚野を厚さ約150ミクロンにスライスすることにより、少なくとも一部の神経細胞を一週間にわたって維持できることが確認されている。ただし上述の実験では、蛍光色素を用いて神経繊維が脳組織から伸長していく様子を観察するにとどまり、神経細胞の電気的活動が正常であるかなどの考察は行っていなかった。実は組織を極めて薄くスライスするために、大脳皮質の3次元的な神経回路の保存が悪く、白質刺激による集合電位の確認が難しいという問題点もあった。そこで今回、厚さ400ミクロンにスライスし集合電位の確認を可能にした生後35-50日令の成熟大脳皮質を、一定時間市販のインキュベータ-中あるいは記録用チェンバー中で培養し、様々な培養条件が神経細胞にあたえる影響を電気生理学ならびに組織学的に比較した。 結論から述べると、従来より幼弱脳の培養に用いられてきたインターフェイスタイプの容器に成熟脳切片を静置し、市販のCO2インキュベータ-中で培養したものは4時間以内に集合電位が消失し、かつほとんどの神経細胞に萎縮がみられたのに対し、培養液を毎分1.2mlで潅流した場合には十数時間に渡って良好な電位記録ができることがわかった。解析の結果、従来の方法では液相について温度,pHおよびガス組成が平衡に達するまでに長時間を要したこと、また均一な培養液面の維持に問題があったこと、気相について湿度およびガス組織が平衡になかなか至らないことにより、成熟神経細胞が回復不能なダメ-ジを受けた可能性が示唆された。一方、長期にわたり潅流しつつ培養するためには大量の培養液が必要でなおかつ無菌的に電気的記録を取る必要がある。そこで現在引き続きこの為の装置を作成中である。
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