研究概要 |
本研究では、線虫C.elegansを用い、性行動に関する突然変異体を分離することを目的とした。性行動は霊長類以外の多くの生物においては生後の学習を必要とせず、完全に遺伝的にプログラムされたものである。ところが、性行動の詳細な観察は各種生物でなされているものの、その行動がいかにプログラムされているかという遺伝子レベルでの研究は非常に少ない。そこで、線虫においてオスの性行動に異常のある突然変異体を集めることを行った。まず最初に、オスが高頻度で出現するhim-5変異体を用いた。この株をEMSで変異処理し、孫の世代(F2 )の雌雄同体を一匹ずつ隔離し、さらに子孫を作らせた。形成される集団は、雌雄同体とオスの混合になるので、実体顕微鏡下で観察すると、頻繁に性行動を行なっているのが観察される。この行動が見られない集団を捜し、突然変異体としてストックした。後半のスクリーニングでは、精子の注入により雌雄同体の陰門に盛り上がりを生じるhim-5;plb-1株を用いることにより、見かけ上の行動は正常だが、精子の注入に至らないものも同定することを目指した。このようなスクリーニングで性行動不能変異株が18株、性行動昴進変異株が17株得られた。この後者のものは、当初我々の予期していなかったものである。これらは性行動の頻度が、野生株に比べて上昇している。線虫のオスの性行動は大まかにBackup,turning,vulval location,spicule insertionの4つのステップから成るが、上述の性行動不能変異株の中には、オスの尻尾の形態が異常で性行動を全く示さないものが4株あったほか、他の多くはturningまでは正常であり、それ以降に異常があると思われた。さらに詳細な表現型の解析を行っている。性行動昴進変異株は、行動全体の頻度を調節する機構に変化が生じたものと考えられ、行動の可塑性の観点からも興味深い。
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