実験用サル類の動物福祉を科学的に検証する研究課題の中で、本年度はサル類の同居への選択性を各条件で検討することを目的とし、飼育下のニホンザルで実験を計画して実施した。まずコントロールとして、通常の個別飼育時におけるケージ内のサルの位置、姿勢および注視対象物の分布を数頭のサルを用いて定量した。この結果をベースに、他個体との社会的交渉の密な状態を段階的に導入し、上記各指標の変化を捉えて評価する実験を組んだ。具体的には第1段階として二連ケージにおいて隣接ケージとの間仕切りに透明なアクリル樹脂板を設置し、視覚的同居のみの条件とした。第2段階は金網製の間仕切りを入れ、網越しの匂い嗅ぎ行動やグル-ミングなど、部分的な直接接触条件を作った。第3段階として間仕切り板を撤去し、完全な同居とした。 二頭のサルの組み合わせを、性・年齢によって様々に変え、親和的行動(接近あるいはグル-ミングなど)と忌避的行動(眼をそらすあるいは遠ざかる)および闘争の出現頻度を計り、どのような相手なら同居を好むのか(あるいは嫌うのか)、その傾向が性や年齢でどう違うのかを調べた。なお、ニホンザルは季節繁殖性を有し、交尾期には異性個体への選択制が発情周期によって異なる可能性がある。このため、交尾期と非交尾期の両方の時期において同一実験を繰り返している。被験個体と同居個体の位置、姿勢および注視対象の記録にはタイムラプスビデオを使用し、肉眼による観察と合わせてデータを解析中である。
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