研究概要 |
土器や瓦等の熱を受けた遺物や焼土の研究では,窯内や野焼きの際の加熱温度や生成状況,その後の再加熱の有無は必要な情報であるが,有効な調査手法が無く研究は余り進んでいない.本研究では,磁性鉱物が高温からの冷却時に獲得する熱残留磁化を用いて,遺物や焼土の被熱の履歴を調べた.特に有効な研究方法の開発を目的とした.遺物や焼土に数%重量で含まれる鉄の酸化鉱物は非常に安定な熱残留磁化を獲得し,これは地磁気の方向と強さの化石として数万年後も残ることができる.研究方法はこの熱残留磁化を用いた段階熱消磁法とテリェ法の酒井改良法からなる.更に帯磁率や磁気異方性測定等を併せ,試料採取や加熱実験の際の試料の整形加工にも工夫を施した総合的な検討法となっている.方法の開発は実際の研究対象に適用しながら進めた. アフリカのカメルーンで使用されている野焼土器の実験考古学では,土器の磁化は確かに生成時と煮炊きの際の地磁気を記憶していた.富山県立山町出土の江戸時代の鍔試料では,高温生成時と低温の再加熱時の磁化の分離に成功し,その結果,焼成及び煮炊き時の温度の推定,利用環境や生成時の状況の有効な調査となった. 須恵器を焼成した窯の周囲への熱影響を,青森県犬走窯遺跡で検討した.窯壁から10cmの距離で磁化特性が大きく変わり,周辺への熱影響の定量的パラメーターを得た.窯の使用温度と使用期間にこの距離は依存する.シリアのネアンデルタール遺跡の炉址では,炉址平面と断面での被加熱温度の分布が図化できた.遺構の断面や平面の熱分布は重要であり更に適用例を増やす必要がある. 本研究で開発した焼土や土器の熱履歴を検討する有効な方法は,遺物や遺構に温度の因子を与えることができ,考古学に非常に貢献できる方法と考える.同方法を更に開発しながら様々な対象に適用することが望まれる.
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