7年度における本研究は、(1)殻体劣化現象における調査方法の検討、(2)劣化進行のメカニズムの解明、の両テーマを研究課題に捉え研究を遂行した。 (1)においては、現世殻体(メカイアワビ)を劣化している出土遺物殻体(毘沙門遺跡より出土したアワビ)を試料にこれらの状態調査法を検討している。蛍光、蛋白質、アラゴナイト結晶積層構造、結晶の微粒化や溶解、結晶型の変異、結晶の無機成分などについて、金属型光学微顕微鏡、走査型電子顕微鏡、可視紫外分光光度計、分光蛍光光度計、FT・IRなどの機材を利用し多面的な方向から解析中である。そのなかで、硬度測定が劣化状態の判定に重要であることが判明した。また、出土遺物である「ローマ時代のネックレス」に使用されている真珠の劣化状態について上記の分析法によって検討を加えた。 (2)においては、同様の試料に対して新規導入した「キセノン耐光試験機」を用いて温湿度変化や光照射による長期間の劣化促進試験を実施中であり、時間経過による劣化進行のメカニズムについて検討を開始した。調査項目、使用機材は画像、分析の双方から適宜選択することにより、両テーマが有機的にかつ相補的に殻体の劣化現象を解明すると考えている。 一方、ロンドン・大英博物館所蔵の中世装身具群を飾る真珠、ベネツィア・サンマルコ大聖堂の「パ-ラ・ド-ロ」を飾る真珠など海外の伝存真珠や橿原考古学研究所所蔵の「太安万侶墓出土真珠」や京都国立博物館における「蒔絵〜漆黒と黄金の日本美」特別展での数多くの螺鈿を検察する機会をもった。これらは今後の研究遂行の上で非常に意義のあることとなろう。
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