8年度における本研究は、前年度に引き続き(1)真珠および殻体劣化現象における調査方法の検討、(2)劣化進行のメカニズムの解明、の両テーマを研究課題に据え研究を遂行した。 (1)においては、出土遺物である「ローマ時代のネックレス」に使用されている真珠の劣化状態について下記の分析法によって検討を加え、国際文化財保存学会第16回大会(コペンハーゲン)でその成果を発表した。会場では欧米の研究者との議論の機会を持つことができた。蛍光現象、蛋白質、アラゴナイト結晶積層構造、結晶の微粒化や溶解、結晶型の変異、結晶の無機成分などについて、金属型光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡、可視紫外分光光度計、分光蛍光光度計、FT-IRなどに加えX線回析分析やX線エミシオグラフィについても新たに取り入れ検討を加えた。そしてこれらの機材や手法を利用し多面的な方向からさらに解析中である。また、 (2)においては、現世の螺鈿貝殻試料に対して昨年度導入した「キセノン耐光試験機」を用いて温湿度変化や光照射による長期間の劣化促進試験を継続実施中であり、時間経過による劣化進行のメカニズムについてさらに検討を加えている。これらの調査項目や使用機材・手法は画像や分析の双方から適宜選択することにより、両テーマが有機的にかつ相補的に真珠・殻体の劣化現象を解明できると考え、総合的な成果を期待している。 これらの研究成果は、今後の伝統的な漆器工芸品を始めとする文化財の保存にとって有意義な情報を提供するであろう。 一方、昨年度に引き続き今年度もヨーロッパ各地の博物館(コペンハーゲンのデンマーク国立博物館、ハリのルーブル博物館、スコットランドの国立博物館など)を訪れ、真珠工芸品の保存状況を視察する機会を得た。これらは今後の研究遂行の上で非常に意義のあることとなろう。
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