保存環境の中で、保存中の出土木製品に最も大きな影響を及ぼす因子の一つは空気中の湿度である。湿度変化は、出土木材の膨張・収縮などの物理的変化のみでなく、木材繊維の分解・劣化などの化学的変化にも関係する。本研究では、臨界点乾燥処理を施した出土木材への湿度変化の影響を速度論的に検討した。 まず、超臨界乾燥処理を施した出土木材の平衡含水率を測定した。その結果、平衡含水率は、空気の相対湿度が80%以下では、相対湿度にほぼ比例することが分かった。次に、湿度を30%と80%の間でステップ状に変化させ、そのときの出土木材の重量変化曲線を測定した。吸湿・脱湿の律速段階を調べるため、ある試料を8等分し、分割前と分割後の試料の重量変化曲線をそれぞれ測定して比較した。その結果、出土木材の吸湿・脱湿は木材内における水分の拡散過程が律速過程であることが分かった。そこで、拡散理論に準拠して水分移動係数を算出した。数種類の樹種について、水分移動係数D_Aと嵩密度ρ_Bの間の関係を調べたところ、両者の間にはほぼ反比例の関係があり、樹種には無関係に次の相関式を得た: D_Aρ_B=0.32 g/(cm・day) ここで、D_Aとρ_Bの単位はそれぞれcm^2/dayとg/cm^3である。我々は、以前に自然乾燥における減率乾燥速度から、上式と同様の相関式を得ている。臨界点乾燥の場合には自然乾燥の場合のように極端な収縮が起こらないため、本実験で得た水分移動係数は自然乾燥の結果に比べ約3.5倍大きい。さらに、現在広く用いられているPEG含浸処理を施した出土木材の水分移動係数を測定し、上式と比較した。PEGが木材中の細孔を閉塞するため、PEG含浸処理材の水分移動係数は上式からの推算値の約1/10であった。以上の結果を総合すると、水分移動係数の値は、(臨界点乾燥処理材)>(自然乾燥処理材)>(PEG含浸処理材)の順になっており、臨界点乾燥処理を施した出土木材が湿度変化に最も速く追随することが分かった。
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