金色堂のおかれている環境の変化について、これまでに測定された温湿度記録の整理と解析を行った。保存施設改修前(1986)、改修中(1989)、改修後(1993)の年間の温湿度記録を比較したところ、改修前の相対湿度は70%RHをこえていて、特に7、8月の月平均相対湿度は80%RH以上で、改修前には金色堂がかなり高い湿気を受けていたことがわかった。外気の年平均湿度はいずれの3年とも75〜85%程度で中尊寺全体が大変湿気の多い環境にあり、しめった外気がガラスケースの中に入ってきて、金色堂に黴の発生や金属の錆を引き起こしていたと考えられる。 改修中の1989年にはガラスケース内の湿度は除湿器の稼働により60〜70%RHに低下しているが、まだ空調システムなど全体が不安定な状態であったので、年間を通してみると相対湿度の変動が大きいことがわかる。これに対して改修後の1993年にはガラスケース内の相対湿度は65%RH前後でほとんど一定であり、空調システムを含め保存施設全体が大変安定してきたことがわかった。空調に用いている除湿器の動作時間を1989年と1993年で比較してみると、1989年は年間で約6000時間動作しているが、1993年は1/4の1500時間程度に減っていて、この4年間ほどの間に金色堂の部材も含めてケース内の物が取り込んでいた過剰な湿気がすっかり除去されたと考えられる。その結果、金色堂の木材が収縮して漆膜面に亀裂が生じたと判断される。 金色堂を構成する木材の収縮についての計測を始めたところではあるが、これまでの測定では木材の寸法変化が確かに観察された。まだ1年間通した記録が得られていないので、この寸法変化が湿度によるのか、季節的な温度変化によるのか、今後の計測結果を持って判断したい。
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