中尊寺金色堂の改修工事に伴う周囲の湿度変化によって、木材が乾燥して収縮し、部分的に亀裂が発生した。現在も木材の収縮が進行しているか知り、修復時期決定の参考とするために、金色堂保存施設(覆堂)内部の温湿度を計測すると共に、金色堂の周囲の縁板に変位計を取り付け、木材の収縮の様子を測定した。金色堂内部の湿度は温度の変化にもかかわらずほとんど65%に保たれているが、この2年間に縁板の隙間は0.3〜0.4mm程度変化した。保存施設内の温度変化との相関を調べてみると、隙間間隔の変化は季節の温度変動に対応していることがわかった。しかし、全体の傾向として、当初は隙間が開く傾向にあったものが、この1年間はほぼ安定した季節変化を見せているようである。一方、木材の上に塗られた漆膜にかかるストレスを亀裂のある部分とない部分で測定しているが、亀裂のある部分は縁板の隙間と同じように、漆膜にかかるストレスが温度に対応して変化していることがわかった。ストレスが木材の収縮膨張によるものであるとすれば、乾燥による木材の収縮は現在ほぼ安定したと考えられるので、漆膜にかかるストレスも温度変化によっているだけで長期的には安定したとみなせる。しかし、漆膜に生じた亀裂の延びについて別途調査したところ、この2年間の間に新たな亀裂が生じている部分もあり、木材の収縮による引張力が木材表面に塗られた漆膜に残留しているためではないかと考えられた。この点については、さらにデータを測定して漆膜にかかるストレスの変化について正確な評価を下すことが必要である。
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