中尊寺金色堂は現在、保存施設(ガラスケース)に納められている。従来のガラスケースは外界の影響を受けやすく、年平均湿度が80%RHにも達してカビや錆の発生が見られた。それらの被害を防ぐために1986年から90年にかけて改修工事が行われ、ガラスケース内の湿度を65%RH程度に下げたところ、新たな問題として木材が乾燥して収縮し、木材の上に塗られた漆膜に亀裂が発生した。現在も木材の収縮が進行しているか知り、適切な修復時期を決定するために、ガラスケース内の温湿度と木材および漆膜の収縮との関係について測定を行った。まずガラスケース内の温湿度を測定したところ、温度は5°Cから25°Cの間で年変動するが、湿度はほとんど65%に保たれている。金色堂の周囲の縁板に2枚の縁板にまたがるようにして変位計を取り付け、木材の収縮の様子を測定したところ、計測された縁板の隙間は、季節の温度変動に対応して0.3〜0.4mm程度変化していることがわかった。この隙間は本研究を始めた当初は開いてゆく傾向にあったが、平成8〜9年度になるとほぼ安定した季節変化を示した。漆膜にかかる内部応力を測定したが、季節の温度変化に対応した応力変化だけでなく全体に増加する傾向が少しみられた。これらの測定結果から、当初はガラスケース内の湿度低下により木材が乾燥して収縮が進んだが、環境が変化して10年近く経った現在、乾燥による木材の収縮は落ちついたと考えられる。しかし縮んだ木材に引っ張られた漆膜には、応力が残っているためにもう少し亀裂は進行するおそれがあると考えられる。
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