研究課題/領域番号 |
07831017
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研究種目 |
一般研究(C)
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研究機関 | (財)元興寺文化財研究所 |
研究代表者 |
北野 信彦 財団法人 元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (90167370)
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研究分担者 |
肥塚 隆保 奈良国立文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 室長 (10099955)
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キーワード | 人造朱(水銀朱) / 人造ベンガラ / 緑礬(ロ-ハ) / 硫黄成分 / 復元製作実験 / 加熱工程 / 水簸作業 / 黒色変化 |
研究概要 |
本年度はまで色漆(赤・黒色漆)の基礎実験試料となる各種顔料の原材料の収集を行うと同時に近世色漆の使用顔料に関する各種古文書・民族資料等の基礎調査を行った。その結果、(1)赤色漆の使用顔料である「朱」「ベンガラ」は、それ以前の「辰砂」「赤鉄鉱」からなる天然顔料ではなく、いずれも中国伝来技術を基本型とした人造顔料であること、(2)黒色漆の使用顔料には「カーボン系」「鉄錆系」があるが近世日用漆器の多くは後者であり、被熱や日光等で羊羹色(錆色)に変・退色した資料が多いこと、等が確認された。 次に実験計画に沿い特に近世漆器に多用される赤色人造顔料の復元製作実験および個々の資料の評価を行った。その結果以下の知見を得た。(1)水銀と硫黄の合成化合物である人造朱(水銀朱)は天然辰砂と比較して極めて大量の硫黄を使用する(当時貴重であった水銀の使用量を抑えるためと硫化水銀への化学反応の効率化を図るため)。そのため加熱-昇華工程のみで顔料作成時は赤味-黄味の色味程度の異なる試料を作成できるが、その後は黒色変化の原因ともなりうる。(2)人造ベンガラの原材料は天然ベンガラの赤鉄鉱では無く、磁硫鉄鉱の二次風化物の緑礬(ロ-ハ)を、約650-700℃で加熱して作成する。このような試料は色味は鮮赤色であるが高湿度下では潮解性を示す。(3)人造朱・人造ベンガラ共にその原材料に大量の硫黄成分を含み、この残存程度が試料の黄-赤-黒色の色調の違いを決定するが、その後の湿度変化等で不安定物質となる可能性も高い。これを回避するために水簸作業を行う。この作業は基本的には水を介在させることで粉砕した顔料粒度を揃える工程であるが、余分な遊離硫黄を除去させかつ新たな安定物質(水酸化鉄等)を化学的に生成させる効果も理解された。(4)水簸を丹念に行わず硫黄成分を多く含む粗悪な人造顔料を各種漆に混和した場合、その漆膜試料はその後黒色変化等を起こす可能性が高い。
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