研究課題/領域番号 |
07831017
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研究機関 | (財)元興寺文化財研究所 |
研究代表者 |
北野 信彦 (財)元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (90167370)
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研究分担者 |
肥塚 隆保 奈良国立文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 室長 (10099955)
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キーワード | 黄色系漆 / 緑色系漆 / 石黄(硫化砒素As_2S_3) / 江戸時代前期 / 江戸時代後期 / 藍(インジゴ) / 人造石黄 / 変・退色 |
研究概要 |
本年度は、昨年度まで行ってきた赤色系漆に使用されたベンガラや朱等の赤色顔料に関する基礎調査および復元実験に引き続き、黄色系漆および緑色系漆に使用されたことが実際の近世出土漆器資料の分析で確認された石黄(硫化砒素As2S3)に関する基礎調査を行い、以下の知見を得た。 (1)石黄の使用は、1630-1670年代頃を中心とした江戸時代前期(生漆と混ぜて鮮やかな黄色の発色を得、金蒔絵の代用色漆として漆器地外面の加飾に使用する)と18世紀後期以降の江戸時代後期(主に植物有機染料である藍と混ぜて緑色の発色を得、地塗りの緑色系漆として使用する)の2時期に年代も使用方法も大別され、途中途絶時期を約1世紀挟む。 (2)これらは同じ石黄を使用しているが、前者の黄色系漆は、漆に比較して顔料の混入比率は極めて高い(漆:石黄粉=約1:1以上)。一方、緑色系漆では、漆を青色に染色した植物有機染料であるインジゴ成分がFT-IR分析およびX線回折分析の結果確認され、その青色漆の中に混入比率が極めて低い少量の石黄粉が見出された。 (3)黄色系漆は鮮やかな黄色からくすんだ茶色までその色調は様々で、出土時には一部チョ-キング劣化も確認される。また緑色系漆はいずれも塗膜面は薄く極めて脆弱であり、保存処理薬剤や熱湯で植物染料が抜け茶色に変・退色する事例が多い。 (4)文献史料調査の結果、江戸後期以降の緑色系漆の使用は奥州会津塗が起源であり、その背景には享保年間に会津で使用顔料である人造石黄の製法が開発されたためとされる。 (5)人造石黄の製法は乾式法と湿式法の2種類あるが江戸時代には砒素と硫黄を混合して加熱し、蒸発再結晶化した硫化砒素を回収する乾式法が採用されていた。一方、江戸前期頃の石黄は、海外貿易品の一つとして、主にシャム等の東南アジアや中国から大量に輸入されており、これらは基本的には天然石黄である。そのため、江戸後期の人造石黄と大別されることが分かった。
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