研究課題/領域番号 |
07831017
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
文化財科学
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研究機関 | (財)元興寺文化財研究所 |
研究代表者 |
北野 信彦 (財)元興寺文化財研究所, 保存科学センター, 研究員 (90167370)
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研究分担者 |
肥塚 隆保 奈良国立文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 室長 (10099955)
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研究期間 (年度) |
1995 – 1997
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キーワード | ロ-ハベンガラ / 鉄丹ベンガラ / 色漆 / 変・退色 / パイプ状外形を呈するベンガラ / 石黄 / 近世遺跡出土漆器資料 / 人造朱 |
研究概要 |
本研究所では出土色漆における退色現象の把握とその保存に関する基礎的調査として、(1)古文書や口承資料を参考にした江戸時代当時の漆器生産技術の復元、(2)個々の漆器資料の材質分析調査、に分けた調査を近世遺跡出土漆器資料に塗布された色漆(赤色系、黄色系、緑色系および黒色系漆)の問題を中心にとりあげた。この問題を取り上げた大きな理由は、近世遺跡出土漆器資料は、出土時点の色漆の色調や劣化状態が個々大きく異なる場合が多く、土中埋没時や検出後に変・退色を起こす事例も観察されること。さらにはこれらを従来の方法で保存処理した場合、保存処理工程やその後の保管環境の設定条件により色漆の色調がさらに変・退色おこす場合も多いことによる。申請者らは、このような色漆の変・退色の原因にはそれぞれの製法が関与しているものと考え、基礎的調査として色漆の使用顔料について調査を進めた。 調査では、まず管見する機会を得た各近世漆器生産地の各種文献史料(塗師屋文書)から江戸時代当時の色漆の製法を復元した。その上で、申請者らが調査する機会に恵まれた近世遺跡出土漆器資料を題材として、個々の漆器資料を構成する要素である色漆(赤色系漆、黄色系漆、緑色系漆、黒色系漆および加飾の蒔絵粉材料)を中心とした漆器の材質と製法技法に関する分析結果を纏めた。さらに、縄文時代以来の長い使用の歴史を持ち、近世漆器でも多用される赤色系漆の使用顔料であるベンガラと朱を取り上げた調査を行った。とくに近世のベンガラ顔料は、赤鉄鉱を粉砕して用いる天然ベンガラよりはロ-ハベンガラや鉄丹ベンガラに代表される人造ベンガラがその主流であったことが知られた。そのため、これらの復元実験結果を中心に考察を加え作業工程の状況が詳細に理解された。また縄文時代〜古代の出土赤色系漆の使用顔料として近年報告例が増え、その由来が議論の対象となっているいわゆる『パイプ状外形を呈するベンガラ』についても鉄バクテリアの菌体鞘を起源とする結果を得た。次に近世の朱顔料についても文献史料からみた製法の工程復元および実際の復元実験を行った。さらに我国の漆工史の分野では広く知られながら実体には不詳な点が多かった『中近世根来塗』資料についても調査した。また、黄色系漆・緑色系漆の使用顔料である石黄についても調査を行い、江戸時代前期は海外輸入からなる天然石黄が、江戸時代後期は、奥州会津で開発されたとする人造石黄を使用し、途中約一世紀の途絶期をはさむことがわかった。さらに、実際の黒色系漆および赤色系漆の作成作業工程が復元可能な一括漆工用具が江戸市中の水戸藩小石川邸跡(現、東京都文京区春日町遺跡)の一括投棄土坑(ゴミ穴)から検出され、これらの分析調査した結果、色漆作成工程が復元できる貴重な一括の漆工用具であることがわかった。 以上のような一連の調査研究を行うことで、出土色漆(とりわけ取り扱いが困難でかつ出土量が膨大な近世遺跡出土漆器資料の色漆)の変・退色現象の原因の一つとなりうる当時の使用顔料の性状を把握する上で役立ち、かつ、今後、より適切な保存処理方法の開発や保管環境を設定する上での基礎的資料を得ることができれば大変幸いである。
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