本年度は、前年度に引続き、2次元流体系において特異性の発生が示唆されている準地衡流方程式の解析と、シェルモデルのカオス的特性の研究を行なった。非粘性準地衡流方程式については、従来、数学者・物理学者などによって、数学的研究および数値的研究が行なわれてきており、有限時間における解の発散を暗示する数学的結果と、これを支持するように見える数値的結果が得られている。本研究ではこの準地衡流方程式について、従来のものよりも大規模な数値シミュレーションを行ない、従来の数値的結果を再検討することを行なった。この結果、従来解の発散を示唆する、と考えられていた数値的結果は、精度が不足しているため発散の十分に明確な根拠となるものではなく、変数のとり方を変えると、むしろ非発散を示唆する結果も得られることを示した。更に、粘性項をもつ準地衡流方程式の数値シミュレーション結果は、非粘性解の発散に直結すべきカスケード現象が現れないことを示し、これらのことから、従来の有限時間における発散の予想は疑わしく、むしろ非発散と考える方が妥当であることが結論された。また、シェルモデルについては、カオス状態を特徴づけるカオスパラメータとしてリヤプロフ数を選び、その現象論的導出に成功した。この導出法は、リヤプノフベクトルの波数空間におけるサポートが局在化している点に着目し、リヤプノフ数と波数の対応関係を通じて、コルモゴロフ相似則を適用するものである。このようにして導出した結果は数値実験の結果と、アトラクタの次元が大きくなるほど良い一致を示した。この結果は、シェルモデルが、高次元アトラクタにおけるリヤプノフ数の解析的表示が可能なまれな例であることを示している。さらに、この方法をナビエストークス方程式に適用し、リヤプノフスペクトルの分布式を得た。
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