1982年に半導体においてカオスが発見されて以来、半導体カオスの研究は、非線形科学の新パラダイムとしての「カオス」の枠組みのなかに組み込まれ、現在では空間を含めた時空カオスの研究がさかんにおこなわれるようになった。当該研究の目的は、半導体における電子乱流(時空カオス)をモデルシミュレーションと実験から明らかにすることであった。 実験は、高純度n-GaAsを用い液体ヘリウム温度でおこなっている。レーザースキャニング法は3次元微動台にレーザーヘッドを固定し、その先端部に自作の空間フィルターを装着しておこなった。4.2Kの低温では、数V/cmの電場を印加すると中性不純物の衝突電離アバランシェにより、半導体中に電流フィラメントが流れる。空間フィルターによって絞り込まれたレーザービームを試料表面上でビームスキャンし、レーザービームによって発生する過剰電流の2次元パターンを観測することにより、電流フィラメントのイメージパターンを得た。直流電場を印加した場合、1.1Vから1.9Vまでの印加電圧で定常フィラメントサイズは、400μmから1100μmまで増加した。この結果は、Aokiら(J. Phys. Soc. Jpn. 59 (1990) 420)の低温走査電顕法の結果とよく対応している。以上の結果より、レーザースキャニング法によってよく定義された定常フィラメントのイメージパターンが観測されることを確認した。 我々は従来より、dc+acの電場で交流駆動することにより分岐現象とカオスの統計力学的性質を調べたきた。レーザースキャニング法および低温走査電気顕法では、時空パターンを直接捉えることは困難であるが、時間的に平均化された2次元パターンより電流フィラメントの力学的ふるまいを知ることは可能であると考えている。ここでは、電流フィラメントを1MHz程度で交流駆動し、周期倍分岐点近傍で時間的に平均化された2次元パターンを調べた。その結果、分岐点で空間パターンが劇的に変化し、Schollが分類したbreath modeからbulk modeへの転移を示した。この点については、近く論文誌で発表する予定である。
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