第一に、プロテインキナーゼC(PKC)によるG1期抑制の分子機構を平滑筋細胞を用いて調べた。G0期のヒト臍帯動脈平滑筋細胞を増殖刺激すると15時間でS期に入るが、Phorbol-myristate-acetate(PMA)を3時間までに添加するとS期進入が抑制された。Cdk2活性化とRb蛋白(pRb)リン酸化は9時間頃より起こったが、PMAによって抑制された。サイクリンD結合キナーゼ活性は7.5時間をピークとして上昇したが、これはPMAによって増強された。Cdk2・3・4・5、サイクリンG・C・Dは0-3時間から発現し、これらはPMAによって抑制されなかったが、それより遅れて発現するサイクリンE・Aは抑制された。以上より、サイクリンE・Aの発現抑制によってCdk2活性が阻害され、pRbのリン酸化が抑制される可能性が示唆された。しかし、pRbキナーゼの主体がサイクリンD結合キナーゼだとすれば、サイクリンD/Cdk複合体とpRbとの間に何らかの抑制機序があることが想像され、その可能性を検討しつつある。 次に、G2期におけるPKCの役割を内皮細胞で検討した。G1/S境界にアフィディコリンで同調させたヒト臍帯静脈内皮細胞を解放すると、S期は12時間までに完了し、M期が約24時間より始まった。PMAとoleoyl-acetyl-glycerol(OAG)をG2期に投与すると、細胞数の増加が抑制された。しかし、M期同調から解放した細胞の分裂を、PMAは抑制できなかった。アクリジンオレンジ染色により、PMA存在下ではM期の細胞がほとんど現われないこともわかった。以上より、PKCはG2期を阻止することが示唆された。Cdc2キナーゼはG2/M境界附近で活性化されたが、PMAとOAGはこれを抑制した。Cdc2のチロシン脱リン酸化、およびその担い手であるCdc25Bの発現が、PMAによって抑制されることもわかった。
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