研究概要 |
プロテインキナーゼC(PKC)が平滑筋細胞周期のG_1後期を抑制する分子機構を前年度に引き続き検討した。前年度までの検討では、Phorbol-myristate-acetate(PMA)の添加によってサイクリンEとサイクリンAのmRNAの発現が抑制されたため、これによってパートナーのCdk2の活性が抑制されpRbのリン酸化が抑制されるのであろうと考え、論文でもそのように結論した(Sasaguri et al.,1996)。 しかしながらその後の検討で、サイクリンEとサイクリンAのmRNA発現が明らかに抑制されるのはG_1後期ないしG_1/S移行期からで、それ以前では明らかな効果は見られなかった。G_1後期のサイクリン蛋白をウェスタンブロットで見たところ、サイクリンE・サイクリンAともにPMAの有無では差が認められず、またCdk2に結合したサイクリン蛋白にも差がなかった。サイクリンEとサイクリンAはE2Fによって転写が亢進するため、PMAでmRNAが減少したのはG_1/S移行が阻害された結果である可能性もある。従って、PKCによるG_1後期抑制をサイクリンの発現抑制だけで説明するのはもはや困難と考えた。 そこで、サイクリンとの結合以外のCdk2制御機構を検討する必要が出てきた。まず、Cdk2を抑制するCdk阻害蛋白p21およびp27の発現に対するPMAの効果を見たが、いずれに対しても明らかな効果はなく、これらの発現を高めることによってG_1後期を抑制するとは考えにくかった。この結果は、我々が同時に検討していた一酸化窒素(NO)によるG_1期抑制がp21の発現誘導によると思われたのと対照的であった。 そこで次に、Cdk2のリン酸化状態に対するPMAの効果を見ることにした。まだ予備実験の段階だが、SDS-PAGEでの移動度で見る限り、PMAは、一般にT160がリン酸化されたCdk2とされるバンドへの移行を抑制するとともに、抗ホスホチロシン抗体で認識されるバンドを増強する傾向が見られた。即ち、PKCはCAK・Wee・Cdc25などを介してCdk2のリン酸化状態を変化させその活性を抑制する可能性があり、今後の検討を要する。
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